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軽い気持ちで薦めてみる「S&Mシリーズ」plus2

 

 『すべてがFになる』のアニメを勝手に盛り上げる一環で、『F』を含む「S&Mシリーズ」と二つの短編集をざっくばらんに紹介してみようと思う。読んだのがそれなりに前なので微妙に内容があやふやだったりするが悪しからず。

 表紙は現在手に入る新カバー版にしてある。そのため、辰巳四郎デザイン全開の短編集二つが若干浮いてないでもない。

 一応お薦めポイントも盛り込んでみたが、可能なら順番に読む方がいいとは思う。

 こんな記事を書いておいてアレだが、どれも面白いので超お薦め。

『すべてがFになる THE PERFECT INSIDER』

 

 アニメの原作にあたる、氏のデビュー作である。シリーズの1作目となるわけだが、執筆順から行くと4番目だったりする。そのため、シリーズ1作目にありがちな手探りなところがあまりなく、世界観がかなり完成されていて、その後の空気感の極北を覗かせているところもあり、読み返すと発見が多い作品である。

 所謂「理系ミステリィ」をちゃんとやっていた頃の作品で、コンピュータネタ等が多く、普通のミステリィを期待すると若干敷居が高いかもしれない。逆にSFっぽい雰囲気や、なにより真賀田四季という強烈なキャラクターに馴染めれば、すんなり入っていけるのではないだろうか。

 

 

『冷たい密室と博士たち DOCTOR IN ISOLATED ROOM』

 『冷密』は執筆順でいけば最初の作品で、実質上の第1作であったりする。その名残は随所に残っていて、『F』よりも敷居が低くなじみやすいかもしれない。僕自身はこの作品から本格的にハマった。

 ストーリー自体は、かなり模範的なミステリィで、シンプルでありながらきちんとトリックがあり、解決があるという、今では考えられないような構成ではある。しかし、大学を舞台にした独特のアカデミックな雰囲気も確固として存在し、森作品のスタンダードといえる。

 

 

『笑わない数学者MATHEMATICAL GOODBYE』

 ドラマ化したとき、もし続きで映画化するならこれだろうなと思った作品(しなかったけれど)。所謂「館もの」で、綾辻行人のような「新本格ミステリ」的楽しさがある。トリックは結構あからさまなのだが、楽しいミステリィが好きな人だとすんなり行けるのではないだろうか。結末についての北村薫氏の発言がそれなりに有名だが、まあそこまで気にしないでも十分に楽しめる。

 天王寺翔蔵博士という偉大な数学者が登場し、だんだんとキャラのウェイトが高くなってきたかなという印象がある。アクロバティックな事件とキャラクターを楽しみたい人向け。

 

 

『詩的私的ジャック JACK THE POETICAL PRIVATE』

 タイトルセンスが一段上に行った印象がある。最初の3作も思い入れ深いが、シリーズが勢いに乗ってきたのはどこからかと訊かれれば、恐らくこの作品からだろう。タイトル通りとても詩的な作品で、唐突にポエムが挟まったりして、ミステリィという枠を大幅に逸脱し始める。とはいえ、肝心のミステリィパートもしっかりしていて、シリーズ通してもガジェットである「密室」の出来はこの作品が一番ではないかという意見もある。

 ポエティカルなシリアルキラーもので、伝奇小説好きには案外なじみ深いものかも。アニメで取り上げられても、さぞかしアニメ映えしたことだろう。

 

 

『封印再度 WHO INSIDE』

 作中で散見される「意味なしジョーク」が一番冴えているのは本作だと思う。雰囲気が面白い作品である。旧家に伝わる謎の骨董品とそれにまつわる殺人事件の話なのだが、骨董品も知恵の輪みたいな謎アイテムで、作品全体がパズルっぽく、あまり湿っぽい感じではない(そのあたりドラマ版は捉え損なっていた)。

 ネタバレになるので詳細は避けるが、ラブコメ色が強い作品でもある。執筆順でいえば、これの前に「F」があったわけだから、真賀田四季を経てこの辺りで完全にキャラ萌えに振れたのだろう。ここからはあまりミステリィと身構えずに読める。



『まどろみ消去 Missing under the Mistletoe』

 森博嗣の第一短篇集で、「S&M」の前半の後に刊行されている。シリーズ作ではないのだが、この順番で読んでいくことを強く強く薦めるのでここに入れた。シリーズだけで薦めると案外それに気づいてもらえないので。

 森作品から5作選べと言われたら僕ならこれは入れる。そのぐらい『まどろみ消去』には思い入れがあったりする。翻訳小説のような文体を駆使した、透明感のある雰囲気が最高である。ミステリィ仕立てのものから、別にそうでないものまで様々あって色んな楽しみ方ができる。なかには「S&M」の番外のような短編もあるのでシリーズの箸休めとしても意味はあるんじゃないだろうか。

 

 

幻惑の死と使途 ILLUSION ACTS LIKE MAGIC』

 と言いつつ、ミステリィとして一番好きなのはこの作品。「マジック」が事件のモチーフとして使われているのだが、モチーフとトリックが絶妙なまでのバランスを保っていて、惚れ惚れする。続く『夏のレプリカ』と同じ時期の話を描いており、奇数の章しかない(1章・3章~というふうに)。『夏レプ』と交互に読むというやり方もあるが、どうもややこしいらしい。

「名前」という概念を云々する記号論じみたテイストもあって、そっちの方を楽しむという読み方もある。また本作に登場する加部谷恵美というキャラは、数年後「φは壊れたね」に始まる「Gシリーズ」のメインキャラになるというドッキリ(?)がないでもない。

 

 

『夏のレプリカ REPLACEBLE SUMMER』

 雰囲気、という点で一番お薦めなのはこれ。静かでノスタルジックな空気が素敵なミステリィである。なによりゲストキャラの蓑沢杜萌の存在が大きい。森作品のなかでも一、ニを争う美少女だと思う(大学生は少女かという問題はさておき)。ビジュアルという意味でなくキャラクターとして「美少女」というキャラはいると思うのだが(『W.A.2』の小木曽雪菜や『true tears』の湯浅比呂美あたりを想定している)が蓑沢杜萌もそのタイプなんだろう。

 先ほども書いたが、こっちは偶数の章しかない。でも交互に読むのはやっぱりややこしい。分量のわりに事件は非常にシンプル。こう書くと無駄が多いのかと思われそうだが、読んでいてそんな感じはまったくしない。この独特の透明感を演出するために、それだけ紙幅を割く必要があったのだろう。

 

 

『今はもうない SWITCH BACK』

 タイトルが素晴らしい一作。『詩的私的ジャック』あたりもすごいが、これをタイトルにできたことがそれだけですごい。本作が一番良いという人もいる。僕は一番だとまでは思わないものの、シリーズでも独自の位置を占める作品だとは思っている。おじさんと少女みたいなカップリングが好きな人にはど直球なんじゃないだろうか。

 あまりネタバレになるので言えないが、メインとなるトリックに気づくかどうかで結構読み味は変わるだろう(どんなトリックでもそうだが)。ちなみに僕は真相をネタバレされてから読んだ。



『数奇にして模型 NUMERICAL MODELS』

 いよいよタイトルがぶっ飛びだすシリーズ終盤の一作。「好きにしてもOK」の変形らしい。前作から格段にページ数が増えるので、そこが結構ハードルになりもする。「人形」がモチーフで、狂気というか偏執狂的な雰囲気がそれなりに強い珍しめの作品になっている。いきなり長くなったこともあり、事件がごたついている印象は否めない。

 また、シリーズ屈指の奇抜な外見の大御坊安朋が登場する。「S&M」は見た目のインパクトで攻めるキャラは少ないので、わりと異質な存在といえるだろう。後の「Vシリーズ」あたりのキャラクター造形の片鱗が感じられる。

 

 

『有限と微小のパン THE PERFECT OUTSIDER 』

 シリーズ最大長篇にして、集大成ともいえる最終作。圧倒的に長いので、それなりに決心して読まなければならない。内容としては『F』と対になるもので、真賀田四季が満を持して再登場を果たす。      『F』にあった電脳テイストもよりスケールアップして復活しており、正直事件とかミステリィとかは後景に退く。なによりも真賀田四季を楽しむ作品である。ラストの犀川創平と四季の会話をシリーズ屈指の名シーンに挙げる人もいる。ミステリィとしての完成度を他作品に譲るので、最高傑作かというとすぐには答えにくいのだが、真賀田四季周辺の描写や、森作品に通底する精神みたいなものの洗練度はこの作品が群を抜いている。まさしく集大成といえるものだろう。

 指摘するまでもないが、『F』と対ということで副題の方も、『THE PERFECT INSIDER』と『THE PERFECT OUTSIDER』で対になっている。これはけっこうシリーズに留まらずこの先の作品も含む全体のテーマにもなっているんじゃないかと勝手に思ってはいる。



『地球儀のスライスA Slice of Terrestrial Globe』

 『まどろみ消去』に続く第二短編集。僕は『まどろみ』の次の次ぐらいに好きだ(二番目は『レタスフライ』ってやつ)。先ほど読む順番の話をしたが、実は『まどろみ』自体は『封印再度』の後でも『有限と微小のパン』の後でもどちらでもよい(あんなに言ったのに)。けれども、もしも「S&M」に続いて「Vシリーズ」を読むならば先に『地球儀』は絶対読むべきである。第一に「V」の第ゼロ作となる短編「気さくなお人形、19歳」があるのと、第二にこれを読んでいないと「V」の後半がしんどくなる。必読の短編だろう。

 『まどろみ』に比べると切れ味は若干落ちるが、随所に森博嗣一級のセンスが光る短編集で、「S&M」の番外も変わらず収録されていてお得である。