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始まりの鼓動を、もう一度。――『アイカツ!』153話

 TVアニメの限られた30分弱の時間で、とにかくテンポよく話を進め視聴者を惹きこむのが良いのか、多少テンポを犠牲にしてでも描きたいことを丁寧にやるのが良いのか、というのは難しい問題である。結局はさじ加減の問題なのだが、結果から見れば『アイカツ!』153話は後者を選択している。つまり、テンポが少し悪くなろうとも描くべきことを丹念に描いている話であるということだ。

 

 153話のテンポがゆっくりになっている原因は、北海道の村やそこに住む人々を描く時間が長いことと、のの&リサのエピソードに起伏が乏しいことにあるだろう。村の人々を映すのはルミナスの全国ツアーという大枠を示す上で不可欠ではある。しかし彼らは本筋にそれほど絡まない人々でもあるわけで、展開という点からみれば足踏み状態にはなってしまう。だからこうした描写を比較的手早く済ませてストーリーを動かすという手もあるのだが、あえて153話は彼らが登場するシーンを長めにとっている。それは一つには、彼らを映すことがあかりたちルミナスが交流していく人たちがどのような人たちなのかを具体的に提示することに繋がるからだ。

 

 同時に、のの&リサと村の人々の親しげな様子を丁寧に映すことは、Bパートでの二人のアイドル性について言及されるシーンへの伏線ともなっている。二人が村の人々を喜ばせるという点でアイドルだという主張がされたとき、その対象となる人々がしっかり描かれていることで、それは単なる事実として提示されるより遥かに重みを持つことになる。

 

 一方で、のの&リサのエピソードが起伏に乏しいのにも、それなりに理由があるように思う。153話では、ライブ会場の前で出会い、二人を中へと案内し、街の本屋で再会を果たすというシンプルなストーリーが淡々と展開される。一見非常に地味な印象を受ける展開だが、こうした外枠で尺をとらないからこそ、ののやリサの丹念な描写が可能になっている。出来事がシンプル化することで、自然とキャラクター同士の「対話」に主眼が置かれることになり、そこで二人の姿が浮き彫りになる。ルミナスが出会う「新キャラ」というくくりで一緒にされそうな二人は、積極的に話しかけていき感情を隠さないののと、「リサっぺ」と呼ばれて赤面する少し奥手なリサとして、その違いが細かく表現されている。この積み重ねはキャラの差分に留まらず、ラストのアイカツへの決意を表明するのがののでなくリサであるという場面をより際立たせる。

 

 このように、この話におけるある種のテンポの悪さは、その狙いからくる不可避の犠牲であったと見ることができる。もう少し好意的な見方をすれば、153話はテンポよく人を惹きつけるストーリーではなく、ゆっくりと観る者に浸み込んでいくものともいえる。そしてこの話で浸み込んでくるのは、導入部として必要な説明的な部分ばかりではない。

 

ののとリサのことをあかりたちはどのように見ているのだろう。それは大事な問題である。最初に出会ったとき、憧れのアイドルとしての自分に握手を求めた二人を既にアイドルと認識していただろうか。恐らくそれは違うだろう。この時点でのののとリサは、地元のアイドルであろうと、自分たちと会ったことを喜んでくれるファンの一人であり、それに精一杯答えようとしていたはずだ。あかりたちの意識が変わるのはBパート、ののとリサが地元でアイドルと呼ばれるようになった理由を知ったときのこと。


ひなき「人に喜んでもらえるなんてすごいぜ」                              スミレ「私たちはそのために特訓やレッスンに必死なんだ」            あかり「喜んでもらえるなら二人はもうアイドルなんだよ」

 

 このときあかりたち三人はののとリサのことをアイドルだと考えている。だからこそ、二人のように村の人たちを喜ばせるライブにしようと決意を表明しているのだ。このあかりたちが二人に向ける視線は、ののやリサのアイドル性を映し出すだけでなく、彼女たちを通してあかりたちをも映し出している。自分たちのツアーの目的は何なのか、そしてそもそも自分たちの目指すアイドルとは何なのか、その原点がののとリサの素朴な姿のなかに見出される。第4シーズンが始まるにあたってのスタート地点の確認がここで行われている。

 

 また153話は、全体として『アイカツ!』1話のオマージュとなっている。リサがあかりたちルミナスの姿を見て、自らの内で高鳴る鼓動を感じ、アイカツに真剣に取り組むことを志すシーンは、神崎美月のライブを観てアイドルを目指した星宮いちごを思わせる。この二つの話が共通して持つ「目の前に開ける今まで見たこともない新しい世界」、そして「そこに踏み出していくヒロイン」という要素、それは『アイカツ!』という作品が繰り返し描いてきた大きなテーマでもある。そして、先ほど述べたように153話においてルミナスの三人とののとリサの二人は相似形を成している。ルミナスの姿がののやリサにとって新世界であるように、全国ツアーを巡るルミナスも新世界に踏み出している。三人は神崎美月であり、同時に星宮いちごでもあるのだ。始まりの鼓動を感じるのは、あかり・スミレ・ひなきも同じなのだ。

 

 これほどまでの要素を詰め込んだ153話はやはりそれほどテンポが良くない。ぎっしり詰まった内容を引きずるように進んでいるのだから当然だ。今まで進んできた3期分の『アイカツ!』を踏みしめ、新たに一歩踏み出すあかりたち。新たなOP「START DASH SENSATION」とともにそれを感じずにはいられない。装い新たな4thシーズン。


 始まりの鼓動は、もう一度『アイカツ!』に響いている。