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『SHIROBAKO』と『東のエデン』――箴言の持つ重み

 『SHIROBAKO』は『東のエデン』に少し似ているように思う。勿論『SHIROBAKO』がどんな作品か説明してと言われて、『エデン』を持ち出してもまるで伝わらないだろうし、僕も別にストーリーとか設定が似ているとは思っていない。どちらかといえば、随所に盛り込まれたメッセージ性――そんな面白さの一側面が似ている。そう思う。

 

 『東のエデン』の面白さとはなにかと訊かれれば、それはセレソンゲームというシステムや、セレソンたちの社会観、社会派的展開などが挙げられるが、僕はその他に、神山健治監督が作品内に盛り込んでいる社会に出る若者に向けての箴言みたいなものを聞くのが好きである。というより、むしろそちらが『東のエデン』の醍醐味だと思っているぐらいだ。そして、『SHIROBAKO』の面白さの一端もそういう箴言を多く持っている部分にあるように思う。

 

 たとえば、最新話の杉江さんが絵麻に言った台詞を見てみる。

 

僕は僕より上手い人間が、わずかの自意識過剰やつまらない遠慮のせいでチャンスを取りこぼしてきたのを何度も見た。惜しいと思うよ、いまだにね。

 

 かなり重い言葉だ。『SHIROBAKO』には、時々こういう台詞が挿入される。なんとなく、制作陣の経験に裏打ちされたものかなと邪推するが、僕はこの作品のこういうところが好きだ。この作品は確かに宮森あおいたちの「夢」が一つの軸になっており、他のキャラクターも大なり小なり夢を抱いている。そういう意味で理想色が強い作品ではある。しかし一方で、この台詞に代表されるような現実的な次元、仕事に取り組むとは何かを問いかける要素を確固として持っているように思う。それは決して現実のつらさをあげつらう悪趣味なものではなく、仕事をしていく上で、もっと言えば生きていく上で、「自分はこう在りたい」、「共にこう在りたい」という人間像を強く打ち出すものだ。その確かな信念が、『SHIROBAKO』というアニメを、前評判で言われていたような内輪ネタに終始するものではない、骨太なものにしているはずだ。

 

 そして、こちらは『東のエデン』第5話の大杉智の台詞。

 

ホントは平澤、六個も内定取ってるんだよ。言わないだけでさ。でも案外そういうやつが30、40になってコミットできなかった社会に愚痴をこぼすようになることもあるんだよ。僕は平澤にそんなやつになってほしくないんだ。

 

 杉江さんの台詞を聞いたときに、この台詞を思い出していた。計画留年をし、自身の大学でのサークルの企業を目指した友人の平澤一臣についての思いを大杉が述べたシーンである。個人的にとても印象に残っている台詞で、ある意味『東のエデン』の一つの核心をついているかもしれないぐらいに思っている。

 

 『東のエデン』という作品は、「ノブレスオブリージュ」という言葉に代表されるように、社会のなかで能動的に変革へと乗り出す、強い人間の姿を肯定している。描かれる登場人物ほど強く社会のなかで一歩踏み出すのはなかなか難しいとは思うが、それも神山監督の思う理想像が強く出ていることの表れなのだろう。事実、作中ではその強い人間である滝沢朗の活躍と同じぐらい、弱い人間である森美咲をはじめとする面々の奮闘が描かれている。こう在りたい、こう在ってほしい、かく在るべし。そういう人間像が確固としてあり、またそう在ることがどれだけ難しいか知っているからこそ、『エデン』は人の弱さに無頓着な冷たい作品ではなく、愚直さすら感じるアニメとなっているのだろう。

 

 『東のエデン』の描く社会は、『SHIROBAKO』の描く社会より遥かに巨大である。しかし、『エデン』は広大な社会を描きながらも、どこか身近な問題への意識を感じる。インタビューを読んでみても、神山監督は自分の周りの仕事環境や、若者たちへの思いを述べている。特に、河出書房新社の『KAWADE夢ムック』の「神山健治総特集」を読むと、監督が自分が経験したアニメの現場やそれへの思いを語っておられる。そこで監督が述べている疑問や考えは、『東のエデン』や他の作品に明らかに反映されていることがわかる。つまり、『エデン』は、『SHIROBAKO』とは似ても似つかないテイストでありながら、根っこの部分で創作の方法論が似ているのだ。どちらにもアニメ業界に身を置く人たちの思いが反映されており、それは現実に取材している分、世知辛い内容も多い。しかし同時にこの二作品はどちらもこう在りたいという姿勢に愚直で、他のどの作品よりも青臭い理想を信じているのだろう。

 

 『SHIROBAKO』と『東のエデン』。まったく違う作品でありながら、その秘めた熱い思いがとても似ていると感じる二つの作品だ。ときおり挟まれる言葉は、辛辣で、耳が痛く、それでいてなにかを残す、確かな重みを持っている。

 

世の中に不満があるなら自分を変えろ!!それが嫌なら、耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ!!                                             (攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX)