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『冴えない彼女の育てかた』第0話

 一言でいえば驚愕した。これを放送したことそれ自体、そしてその後の評判の二つにである。

 

 僕は『冴えない彼女の育てかた』の原作のファンなのだが、ファン目線からいっても、実をいうと第1巻、第2巻あたりの出来はそれほどよくはない。丸戸史明氏があまりラノベに慣れていなかったことは明白であり、テーマのようなものもまだ見えていない時期だった。だから今回アニメ化に際し丸戸氏がシリーズ構成と全話脚本をするのは、原作のリライト的な意味合いもあるのだろうと考えている。だから最初のほうがつまらん、という人にはどうかもうちょい観てくれ、無理強いはしないがとしか言えないのだが、そこに来てこの0話である。

 

 『冴えカノ』という作品は、安芸倫也を中心とする同人ゲームサークル「blessing software」の面々が最強の同人ゲームを作るために奮闘する物語である。観てればわかるが、0話のような内容ではまったくないのだ。では、0話に一体どんな意味があるのか。まず実際的な面からいえば、「設定説明」と「1クールの境界の設定」という狙いがあるだろう。0話では、倫也によってこれでもかというほどキャラクター情報が説明されている(これはわざとだが)。英梨々と詩羽に関しては、1話からガンガン登場するのでそれほど説明はいらないのだが、美智留は当分登場しないのでここで説明しておこうということだろうか。正直、設定説明については積極的な理由は特にない。大事なのは次だ。

 

 『冴えカノ』の原作は、先月発売の第7巻で一つの区切りを迎えている。そのため、理想をいうなら7巻までアニメ化するのがベストなのだ。しかし、1クールで原作7巻まで進めることはほぼ不可能である。である以上、中途半端ながらどこかで切らなければならない(猛スピードで7巻までやる可能性もないではないが)。そこで、第0話は第1話よりもだいぶ先の時間軸での出来事である。冬コミを前にし、ゲーム制作が大詰めを迎えていることが作中からうかがえる。原作でいえば5巻から6巻のあたりだ。つまり尺の不足から不完全燃焼のラストにすることがわかっているのなら、先にラストを描いてしまおうというわけだ。先にラストがあれば、盛り上げる中途エピソードを最終回でやって、ラスト数分でもう一度0話に戻すということも可能である。恐らくそのあたりを狙ったのだろう。

 

 さて、ここまでは作劇上の問題の話だ。本当の問題は、なぜ0話を「温泉回」という露骨にサービスくさい内容にしたのか、ということについてだ。

 

 否定的見方をすれば、単純に「エロで釣る」といえるかもしれない。エロ要素というのが昨今のアニメで強大な力をもっていることは否定できない。0話からあえてそれをぶち込むことでファン層を取り込もうという考えである。確かに0話は0話だけでパッケージ化されるので、売上的にそう見ることもできないでもないのだが、もともと『冴えカノ』はエロで売ってる作品ではない。この手の演出が続くわけでもないので、エロ路線というのは流石に短慮に過ぎるだろう。

 

 そこで原作を読んでいる身としては、これが『冴えカノ』一級のメタネタであるという肯定的見方もできる。『冴えカノ』は自称消費型オタク・倫也を主人公としており、クリエイターにスポットを当てた作品なので、サブカルチャー方面のメタネタがやたらに多い。これは丸戸氏の経験に裏打ちされたものが多く、巻を重ねるにつれ深みが増すのだが、初期はよくあるメタネタてんこ盛りのラノベと区別がつかず辟易したものだ。そんな『冴えカノ』だからこそ、アニメというジャンルにメタネタを仕掛けたといえる。昨今世に溢れる「萌えアニメ」的露骨なサービスシーンとテンプレートな展開、とってつけたような不自然なキャラ説明、露骨に作り物という雰囲気を崩さないストーリー作り等々、わざとやっていることは明白である。『冴えカノ』は、アニメになっても、そのメタ魂を忘れずやってのけたということだ。

 

 メタネタは大いに結構だし、それを厭がるようなら『冴えカノ』ファンやってないという話だ。ただ、TVアニメというフォーマットを考えるに、少しやり過ぎたのではないかという気もする。まず、単にストーリーとしてみたとき、0話は当然それほど面白くない。「メタ」という側面を考慮しないと、ただただ安直な萌えシーンの羅列にみえてしまう。個人的には「原作読んでないとわからない」という意見は、9割は原作ファンの幻想か、そこがわからなくても全然楽しめるかのどちらかだと思っている。しかしそれでもあえていえば、原作を知らない人は0話だけ観て切ってしまわないだろうか。丸戸氏は0話の次回予告で、「こんな内容なら安心して1話切りできる」とネタにしていたが、TVアニメということを考えると、相当な博打である気がする。そこまで冒険してまで示すことが0話にあったのだろうか。これが一つ目の驚愕である。

 

 あと一番驚いたのは、メタ的に描いた0話、素直にエロとして楽しんでいる人がそれなりにいたということだ。正直、ファン以外にはブーイングの嵐だと思っていたのだが、意外にも褒めている人がちらほらいて、エロシーンについても肯定的な意見が出ていた。となると、最初に否定した否定的な見方もあながち間違いではないのかもしれない。そう思った。これが二つ目の驚愕である。

 

 ともあれ、僕の予想の斜め上を行った『冴えカノ』第0話であるが、原作1巻に準拠する第1話以降を丸戸氏がどう変えていくのか、今はそれが楽しみである。