アーカイブ

カテゴリ

アニメ

漫画

映画

小説

その他

 

『RPF レッドドラゴンⅠ 第一夜 還り人の島』



『RPF レッドドラゴンⅠ 第一夜 還り人の島』

作者:三田誠  虚淵玄・奈須きのこ・紅玉いづき・しまどりる・成田良悟

レーベル:星海社文庫

出版日:2015/1/09

 いつか感じた燃えが、萌えが、震えが、胸の高鳴りがここにはある。「面白さ」を思い出させてくれるもの。それが『RPF レッドドラゴン』だ。


 フィクションマスター三田誠のもと、奈須きのこ、虚淵玄、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟が鎬を削る、TRPGの形をとった物語の新たな形。諸々の事情で、今まで手を出せていなかったのだが、今回の文庫化を機にようやく手に取った。――まずは嘆いた。今までこの作品に触れてこなかったことに。そして快哉をあげた。まだこんな作品が残っていたことに。


 話の大筋は、タイトルからもわかるかもしれないが、狂ってしまった赤竜退治に向かう面々の冒険を描く、王道ファンタジー色の強いものだ。確かにそれだけでも既に面白い。だが、この作品の面白さはもっと先にある。


 こういう作品を見るときに目が行くのは、「世界観、および設定」と「キャラクター」だ。まず世界観や設定だが、TRPGとして成り立たせねばならないこともあり、当然のようにそれらは凝っている。舞台となるニル・カムイは、二つの強国に挟まれた土地で、高度な政治的思惑や、両国の争いに常に巻き込まれてきたところである。そこには、死人が復活する「還り人」と呼ばれる摩訶不思議な現象が起こり、その体を魔物と繋がれた「つながれもの」が存在する。ストーリーが進むにつれ、人々の差別意識や偏見、より大きな政治のうねりが見えてくる。大小さまざまな設定が多数登場し、これを見ているだけでも楽しい。たとえば、TYPE-MOONが出す設定集などに散財した経験のある人なら、間違いなくのめり込むこと間違いなしだろう。ご丁寧に設定本もきちんと出版されている。


 そしてなにより本作の魅力は、躍動感あふれるキャラクターにある。それぞれのクリエイターの得意分野、好み、性癖全開のキャラが縦横無尽に動き回っている。物語は会話形式で進み、しばしばクリエイター自身の言葉も入る。当初個人的にはそれは内輪ネタっぽくなるんじゃないかと危惧していたが、彼らの言葉が逆にキャラに立体感を与えている。クリエイター陣は、決して適当に遊んでいるのではない。全力で遊ぶことで、物語を作っている。


 僕としては、奈須きのこの大ファンということもあり、奈須氏が動かすスアローというキャラクターに興味を惹かれた。触れるもの全てを粉砕する呪いにかかる凄腕の剣士であるスアローは、常に呪いと向き合うことを求められている。奈須氏の世界観では、すごいやつほど、凄まじく重いものを背負っている。その強さの代償に、決して軽くないものを失っているのだ。スアローもまたその一人で、インタビューなどで見る奈須氏本人のようにふざけた態度を貫きながら、その強さに見合う代償を支払い続けている。黒桐幹也に、衛宮士郎に見たものを、また垣間見た気がした。しかも、付き従うメイドさんが反則級にかわいい。性格キツめで、スアローにまったく容赦がないくせに、どこか優しく、しかもスアローとなにやら歪な関係にある様子。全てどストライクだ。奈須きのこの萌えは信じられると長年思ってきたが、それを改めて再確認した。奈須さん大好き、愛してる。


 代表として奈須氏を取り上げたが、他のクリエイターだって負けていない。闇の世界にその名を轟かす暗殺者を操る虚淵玄は、悪名高きその容赦のなさを存分に(しかも楽しそうに)発揮し、予想もつかない方向に物語を進める。紅玉いづき操る「つながれもの」の少女は、背徳的な可愛さがある。魔物に繋がれ、歪んだ部分があるものの、そこを見事にグッとくるようにしている。魔物のヴァルを指して紅玉氏は「気持ち悪いのが、かわいい」と表現していたが、言い得て妙と言わざるを得まい。


 『レッドドラゴン』は星海社の「最前線」で無料で読むことができ、かつ音楽も入る。では、わざわざ金を払って、音楽もついていない活字版を読む意味があるのか、という疑問があるだろうが、僕はあると思う。『レッドドラゴン』は小説的な読み方をしても十分面白いし、なにより星海社文庫という媒体を最も上手く使っている作品な気がする。正直、やたらに長い折り返しとか、意味があるのかないのかわからないオールカラー挿絵(その分数が少ない)とか、星海社文庫には多くの疑問を抱いていたが、それら全て『レッドドラゴン』のためにあったんじゃないかというぐらいだ。長い折り返しは各プレイヤーの紹介に使われ、オールカラーを活かし、しまどりる氏の挿絵がこれでもかというぐらい効果的に挿入され、物語を盛り上げる(しかも他の星海社文庫より明らかにイラストの数も多い)。本という媒体を最大限生かした造りであり、また本を超えた臨場感もあるのだ。


 太田克史氏が送り出す作品とは長い付き合いで、僕も「太田が悪い」と何度も言い続けてきてるような気がする。ただ、時々痛感させられる。太田克史が、そしてこの面子が作る本は、作品は、どこまでも面白いのだ。だからこそ、また手に取ってしまうし、またのめり込んでしまう。僕は奈須きのこ氏の『DDD』3巻がいつまでも出ないことを嘆いているタイプの人間だ。だが、『レッドドラゴン』でまだまだ面白いことをやってくれるなら、もう少し待とうか、という気分にさせられてしまった。それほどまでに、この作品は心躍るものだ。