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『劇場版PSYCHO-PASS』

 『劇場版PSYCHO-PASS』でまず重要な点は、やはりシビュラシステム、ひいては日本の外部を登場させたことだ。今まで意図的に日本以外を描かない閉鎖空間で展開された『サイコパス』の物語が、別の国に舞台を移し、スケールアップして描かれている。これには、常守朱の世界やシビュラシステムに対する精神を対象化する働きがある。作中で朱はシャンバラ特区の外の無法地帯や容赦ない殺戮(ドミネーターによる執行とは違う)を目の当たりにして、驚愕している。ここから見ても、この試みは作品世界を広げるという点で有用なのだろう。

 

 ここまでは正直なところ映画を観に行く前から、ある程度予想はついていた。だから僕自身としては、この試みによって『PSYCHO-PASS』における朱とシビュラの関係、理想の社会に対する解答に何らかの変化が生じればよいな、と思っていた。

 

 少し大きな話になるが、ノイタミナオリジナルアニメは『東のエデン』からと『UN-GO』以降で、支配的な考えが随分異なる。大雑把にいえば『東のエデン』、『フラクタル』、『C』は、「変化によってなにかを変えられる」という精神を貫いており、大変革に肯定的である。対して、『UN-GO』、『PSYCHO-PASS』は、「変化を起こしても、何も良いことはない」という精神を持つ。変革を起こしても、無用な混乱を招くだけであり、かつ抗うべき対象も強大で倒しがたい。ならば、自分にできることを一つ一つ積み上げて理想を目指す、というわけである。つまり、『PSYCHO-PASS』は、シビュラを壊してしまうことを是とはしておらず、システムのなかで可能な限り理想を目指すことが朱のスタンスであることが、TVシリーズ一期で出た結論である。(注1)

 

 そして、劇場版も結局のところ、この精神から抜け出すことはなかった。劇場版をとおして、朱のシビュラに対する考えに大した変化はなく、少し見通しがよくなったとはいえ、一期と同じ結論を出している。『PSYCHO-PASS』という作品は、「敗戦探偵」的想像力から抜け出せはしなかった。また、朱と絞噛の関係にも、とりたてて変化がみられないのが少々残念だった。絞噛とぶつかるまではよかったのだが、絞噛と行動を共にするようになってからの朱が一期のときとそれほど違いがあるようには思えなかった。

 

 この手の現代社会を対象化する作品が、問題意識を更新しないことはどの程度許されるのか、という疑問がここで生じる。『PSYCHO-PASS』という作品の性質上、「敗戦探偵」的想像力から脱却できないのは仕方がないのだが、TVシリーズを2本やって、さらに劇場版までやって、同じ答えを三回出すというのは、流石にちょっと……という感じは否めない。

 

 このように、『PSYCHO-PASS』は社会批評性という意味では死んでいるのだが、それならそれで、アクションや事件の面白さを突き詰めたエンタメ作として頑張ればよいという見方はある。この作品はそっち方面を掘り下げるポテンシャルがあるからだ。しかし、そういう方向で考えてこの作品を観たとき、どうもシビュラというガジェットが足かせになっている印象がある。

 

 最初に書いたように、この作品は、日本の外部であるシャンバラフロートが登場し、国際色が濃い。しかし、作品の性質上、最後はシビュラシステムに話を落とし込まねばならないために、国際ネタを思いっきり広げることができなくなってしまってはいないだろうか。実際、この作品における国際ネタは、銃を使えるであるとか、巨大な陰謀とかには役立っているが、特に国際問題を描いているわけでもなく、どちらかといえばスケールアップのための体の良い道具として使われている。それも、結局シビュラという枠に留めねばならない以上、あまりそっちを掘り下げられないからだろう。

 

 今までは、『PSYCHO-PASS』という作品は、海外ドラマみたいに何回でも話の作れるコンテンツだと思っていた。しかし、この映画でシビュラが足かせになっているところを見ると、もしかするとそのあたりはきちんと考えないと、同じテーマを繰り返すだけの展開になってしまうのかもしれない。一応これで完結みたいなことを聞いた(ような気がする)が、もし続きをやるのなら、そこは新たな焦点となってくるだろう。

 

その他

・霜月監視官が、「為せる者が為せることを為す。空気読めってことですよ」みたいなことを言っていた。今のノイタミナでは、霜月が「ノブレスオブリージュ」と言うのかとちょっと感動した。

・パンフの人物関係表で、槙島が死亡になってないのはなんでだろう。キャラ紹介では死亡って書いてあるのに。

・六塚のキャラ紹介の「唐之杜とは公私ともに息の合ったコンビを組む」という説明に吹いた。

 

(注1)この辺りは『月猫通り2146号』という同人誌に「AIR KINGから敗戦探偵へ」というタイトルで評論を書いているので、よければ読んでみてほしいという宣伝もここでしておく。