アーカイブ

カテゴリ

アニメ

漫画

映画

小説

その他

 

『枢機王狙撃』


『枢機王狙撃』(電撃hp Volume8収録)

作者:上遠野浩平

イラスト:緒方剛志

発行:メディアワークス

 上遠野浩平作品は全て世界観がつながっているというのは、ファンの間では有名な話で(例外は『恥知らずのパープルヘイズ』ぐらい)、そのリンクを楽しむのが醍醐味であり、また逆に取っつきにくいところでもある。そんな上遠野作品の世界観を至極大雑把にわけてみると、

 

・現代もの(『ブギー』、『ビート』、『ヴァルプ』、『エンペロ』、『しずるさん』、『ソウルドロップ』他)

・平行世界もの(『戦地調停士』)

・未来もの(『ナイトウォッチ』、『冥王』、『蛇奇使い』)

 

という感じになる。正直『ナイトウォッチ』と『冥王』を一緒にするのは抵抗がある気もするが、一番シンプルにまとめることを優先してみた。ともあれ、この三種類が色々な点で繋がっているのだが、その「繋がり」において、しばしば短編や中編が、長編作品以上に大きな意味を持つことがある。

メフィストやファウストに掲載された『ブギー』と『戦地調停士』のクロスオーバー作『ドラゴンフライの空』などの短編や、SFアンソロジーに収録されている『ナイトウォッチ』と『冥王』をつなぐ『鉄仮面を巡る論議』辺りがその顕著な例だ。こういう見落としがちなところに重要な情報があったりする。

 

 しかし上遠野浩平ぐらいキャリアが長いと、読もうにも読めない短編が結構あって、『ドラゴンフライ』など一部の短編がKindle化しているほかは大体が文庫未収録である。なかでもこの『枢機王狙撃』は現在刊行されているのでは『冥王と獣のダンス』しかない「奇蹟使い」の世界観を描く『冥王』の外伝であり、それだけでもファンとしては読みたい作品で在り続けた。加えて『ヴァルプ』以降、急速に『ブギー』と『冥王』の世界観が繋がり始め、『螺旋のエンペロイダー』で遂に枢機王が登場するという近年の流れがあることも考えると、とりわけ魅力的な作品であるといえる。個人的にも読みたい未収録短編№1だった。そして、先日運よく雑誌を手に入れることができ、念願の機会を得、早速読んでみた。

 

 『枢機王狙撃』は『冥王と獣のダンス』と世界観を同じくし、『冥王』の約200年前を舞台にしており、奇蹟軍の幹部である奇蹟使いリィズ・リスキィが宿敵枢機軍を統べる枢機王の暗殺を命じられたところから物語は始まる。『冥王』や『ヴァルプ』を読んでいる人ならば、リスキィと聞いて、「おっ」と思うだろう。そのあたりの楽しみもきちんと押さえられており、内容としてはバランスの良い短編という印象である。能力を駆使した派手なバトルがあり、適度に急転直下の展開も用意してあり、そして肝心の『冥王』につながる部分もきちんと描かれている。読む側として、十分に満足できる仕上がりであると思われる。

 

 それにしても、やはり気になるのは枢機王のキャラクターだ。予測していた通り、『エンペロイダー』で描かれた枢機王の吸血の奇蹟は、やはり『枢機王狙撃』において既に明かされている。流石に2000年に書かれた作品でもあることだし、こちらの枢機王と『エンペロ』の流刃昂夕のキャラは結構違うかとも思ったが(それこそ3部と6部のDIOのように)、流石は上遠野先生と言うべきか、きちんと一貫性のあるキャラクターである。謎めいて、危険な匂いをぷんぷんさせる昂夕のキャラクターは今も昔も変わらず鮮やかである。連載はともかく、『エンペロ』の刊行は2013年だから、13年の時を経て枢機王を登場させていると思うと、「上遠野サーガ」の壮大さに目が眩む思いだ。どこまで広がっていくのか、何冊読んでも想像もつかない。

 

 『枢機王狙撃』が読めたことは個人的には満足なのだが、できれば近いうちになにかに収録してほしいように思う。『エンペロイダー』を熱心に読んでいるファンは絶対これを読みたいはずだ。『冥王』の新作が出たらそれに収録されるのだろうか。じゃあ早く『闘神と蠍のフーガ』と『叛乱と霰のワルツ』が読みたいなあ、上遠野先生? とか思ってみるのである。

 

 あと余談だが、短編を読むにあたって買った『電撃hp』(『電撃文庫MAGAZINE』の前身)も随分面白いものだった。高畑京一郎やら古橋秀之やら橋本紡やら川上稔やらがゴロゴロいて、秋山瑞人が『イリヤ』を連載しており、『キノ』は二巻がそろそろ出ようかとしていた。オールスターメンバーという感じで、電撃黎明期を支えた熱量が感じられた。こういう目当て以外の面白さがあることは、わざわざ雑誌を探して読むことの、もう一つの楽しみかもしれない。