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『忍法八犬伝』

 

『忍法八犬伝』

作者:山田風太郎

出版:角川文庫

発売日:2012/12/25

 現代伝奇小説の始祖こと山田風太郎忍法帖の一作です。今回は角川文庫版で読んでいます。タイトルにもあるように、滝沢馬琴の傑作『南総里見八犬伝』を下敷きにした意欲的作品です。

 山田風太郎の忍法帖といえば、歴史の巧妙な読替が魅力の一つです。『忍法八犬伝』では、大坂の陣直前の江戸時代が舞台となっています。伝奇小説らしい異能力を駆使する者たちの荒唐無稽な忍法合戦に、日本史上出来事を惚れ惚れするほど鮮やかに取り込み、ある種のリアリティを出しています。山風忍法帖が安定して面白いのは、一つには歴史という盤石な下地をしっかりと持っているからです。作品を読み進めていくと、「山風サーガ」ともいうべき一大歴史絵巻が完成する、それも山田風太郎の読みどころの一つでしょう。そして本作は史実だけでなく、『南総里見八犬伝』の読替も行われており、伝奇小説の「偽史」的側面が好きな人にはたまらない内容でしょう。


 本作の面白さの源が『南総里見八犬伝』との距離感にあることは間違いないでしょう。原作に似せているところ、意図的にずらしているところ、それらが巧みに配されて、馬琴の二番煎じに留まらない作品にしています。たとえば、藩主の里見安房守は物事をあまり理解しない暗君として描かれており、口が軽く玉梓の呪いの原因となった里見義実を思わせます。一方八犬士は原作では徳の象徴として描かれていましたが、本作では見事なぐうたらぶり、〝忠孝悌仁義礼智信〟の玉も〝淫戯乱盗狂惑悦弄〟に変わり、なんとも大胆な変更です。他にも様々なキャラに原作のキャラの名が与えられており、『八犬伝』を知っていると、より楽しめ、それでいて先がわかってしまうこともないのです。


 『忍法八犬伝』について一つ提起される疑問は「この小説はハッピーエンドなのか?」というものです。本作の大筋は、危機に瀕した里見家を救うため、村雨姫を慕う八犬士が姫のため命を落としながら、戦っていくというものです。最終的に目的を達することを思えば美談と言え、大団円ともとれます。しかし彼らが奉じる村雨姫ですが、これはおそらく、原作の重要なアイテム妖刀「村雨丸」から採っていると思われます。『里見八犬伝』において、多くの人間の血を吸い、とりわけ八犬士犬塚信乃の運命を大きく狂わせる妖刀の名を冠した村雨姫。とすると、彼女の存在も一つの呪いなのではないでしょうか。姫が頼まなければ八犬士は間違いなく、お家のためになど働かず、自由気ままに暮らし、長生きしたことでしょう。姫がいたからこそ、彼らは難行に挑み、命を落としていく。この作品のさらに残酷なところは、八犬士が嬉々としてあれほど嫌がっていた苦難に飛び込んでいき、その運命についてもそれほど自覚的ではないところです。最後に生き残るのが、原作において最も村雨丸に翻弄された信乃であることも、山風一級の皮肉と言えるかもしれません。