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『炎を統べる―るろうに剣心・裏幕― 後編』

 一月挟んでの、緋村剣心の宿敵志々雄真実と駒形由美にスポットを当てた『るろうに剣心』番外編の後編です。衝撃的なラストで終わった前編から、いかにして吉原の花魁華焔は〝夜伽〟の駒形由美となったのか。一人の女の人生を焼き尽くし、華々しく燃え上がらせる炎が燃え盛る。

 

 前編が由美の置かれた環境や、彼女の思想、それに対比する形での志々雄の思想の提示など、比較的動きが少なく丁寧な描写が目立ちましたが、後編が打って変わってバトルメインの動的な画面。やはり『るろ剣』はバトル漫画ですから、こういう展開もあってほしいですよね。

 

 この読み切りの背景には志々雄自身の真実、「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ」が貫かれています。前編では由美は弱かったから、環境に甘んじるしかなく、弱かったがゆえに大切な妹分を失います。由美自身はそれに自覚的ではありませんが、志々雄にそれを喝破されています。後編の大きなテーマは、弱かった駒形由美が強くあろうすることです。自身の全てを賭けた由美の姿は志々雄をも動かし、弘原海鮫兵団との全面対決に突入します。

 

 弘原海鮫兵団とのバトルは、志々雄が無双する感じになるのかと思いましたが、十本刀が前面に出てきました。結果的に志々雄自身のバトルは最後のボス戦のみでした。個人的にはもう少し志々雄の戦闘シーンを見たかったのですが、十本刀の補完になったと思えばそれもいいのかもしれません。原作での十本刀は、全員が華々しく描かれているわけではありません。この原因は恐らく、最初に出てきて剣心に倒された〝刀狩〟の張が瀬田宗次郎、魚沼宇水、悠久山安慈に次ぐ四番手みたいな設定であったことにあるのでしょう(〝破軍(乙)〟の不二はどうか知りませんが)。普通最初に出てきた敵は「奴は~でも最弱」的な扱いですが、『るろ剣』の張はそうじゃなかったんですね。これは興味深い展開なのですが、結果的に残る大体の十本刀が戦う前から剣心に勝てないことが決定してしまいました。そのため彼らは葵屋に向かって、そこで死闘を繰り広げるわけですが、どうしても志々雄のアジトに残った三人と比べると目立たず、「こいつら本当に強いのか?」と思われるのは否めなかったでしょう。しかしこの読み切りで弘原海鮫兵団を圧倒する彼らを見れば、「あ、ちゃんと強いんじゃないか」と思うこと間違いなしです。

 

 もう一つは〝百識〟の方治の描写ですね。彼は専ら交渉役として描かれ、戦闘シーンは一切ありませんでした。しかし志々雄の最終決戦において、銃を持っていたことからわかるように彼には銃器使いという設定があり、和月先生も明言しています。原作では遂に描かれることのなかったこの設定ですが、この読み切りで日の目を見ました。やったね。方治ファンは是非読んでみるべきです。全体的に読み切りは方治の扱いが良いです。

 

 ファンサービスとしてはもう一つ。弘原海鮫兵団の行っていた戦艦購入交渉を志々雄一派が引き継ぐシーンです。戦艦〝煉獄〟の交渉相手――雪代縁の登場です。『るろ剣』最大のパブリックエネミーが志々雄なら、最後のプライベートエネミーである雪代縁。彼が仇敵緋村剣心と相見えるのはさらに後。志々雄と縁の関係は勿論わかっていましたが、この読み切りで縁が登場するのは予想してなかったので、やられたなと思いました。流石、ファンがなにをすれば喜ぶのかわかってらっしゃる。

 

 和月伸宏先生は作品ごとに絵のタッチを変える漫画家です。そのため、『銀幕版』の時は絵柄が『エンバーミング』的で違和感があるという意見もありました。しかし『炎を統べる』は相当かつての絵柄に似せて描かれていますね(新キャラはわりと今の絵柄ですが)。やはり番外編とは言っても『るろ剣』の正編につながるということを意識されたのでしょうか。

 

 全身を炎で焼かれた志々雄真実は、夢と現の境で地獄を見たと言います。「寂しいなんざ感じねェ が 一人で往くのはウンザリだ」と志々雄は由美に話しています。決して志々雄孤独を嫌がったわけではないでしょう。ただ地獄に見た絶望を、和らげる誰かをどこかで求めていたのかもしれません。京都編の最後で、沢下条張もそのようなことを剣心たちに話しています。京都編において、剣心は唯一駒形由美の死に方だけは理解できませんでした。剣心は自分の立場から由美に対する志々雄の振る舞いに激怒しますが、志々雄に「お前の物差しで測るな」と一蹴されています。思うに剣心は唯一由美の生き様だけには勝てなかったのでしょう。『炎を統べる』において駒形由美は強くなったのではありません。彼女はいつだって非力な人間です。ですが、絶対の強者から逃げず常にその傍らに寄り添い、その力の糧となった彼女の道行には、赤く染まった大輪の炎が咲き乱れていたことでしょう。

 

 

 

ホント『るろ剣』になると我を忘れるね。

わかってはいるんだけど、やっぱりこう、ね。