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『ラストゲーム6巻』

『ラストゲーム』6巻

作者:天乃忍

レーベル:花とゆめCOMICS

出版社:白泉社

発売日:2014/07/04

ジャンル:漫画

 好きと言った方が負けという柳尚人と九条美琴の(一方的な)勝負を巡る少女漫画の第6巻です。5巻が出たのが年明けでしたから、大体半年ぶりですか。わかってはいてもこの刊行ペースはやきもきしてしまいますね。

 

 6巻は5巻から続く橘ちゃんの話でありながら、かなり相馬くんに重心がシフトした印象です。個人的に5巻には少し違和感があったので、今度はどうかなと思っていましたが6巻は非常に面白いです。この辺りの理由を考えてみようと思います。

 

 『ラストゲーム』には大きく分けて三種類のキャラクターがいます。つまり、

 

  ①人の内面を見ることができるキャラ

  ②人の外面のみを見てしまうキャラ

  ➂上記二つの二項対立軸にいないキャラ

 

の三種類です。一つ目のカテゴリの代表格はそのまま主人公の二人柳と九条です。二つ目の代表は少し前の相馬と現在の橘、小学生の頃の柳もあてはまるでしょう。三つ目はその他大勢とは言いませんが多くのキャラがこれに分類されます。天文部の面々などはその好例でしょう。『ラストゲーム』では①に属するキャラクターが理想像として描かれ、彼らの関係が理想化されています。例えば1巻で②に属していた柳が①の九条と触れ合うなかでありのままの人を見るようになり、九条と関係を築いていくという展開がそうですし、4巻における早乙女千鶴とそのフィアンセの関係、千鶴と柳姉の関係もその傍証となるでしょう。言ってしまえばこの作品は究極の①である柳と九条の関係を中心に、多くのキャラクターが②→①になるという大きな構図を持っています。相馬はその過程がほぼ完了しており、橘はまだ半ばといったところでしょうか。

 

 このカテゴリ分けをみたところで、なぜ僕が5巻に違和感を覚えたのかという話に移ります。先ほども言いましたが『ラストゲーム』は主人公二人の関係と、①と②の二項対立のストーリーが主軸となっています。これは当初3話完結の予定だった1巻が完全にこの構図をコミックス一冊で再現しています。そのため、続きを描くにあたってかつての柳の立ち位置にいる相馬というキャラが必要になったのでしょう。2巻から4巻にかけては新キャラの登場によってこの展開を繰り返します。しかし5巻が異質なのは橘の登場によって彼女にアプローチをかける天文部の吉田の出番が一気に増えたことでしょう。彼はカテゴリ分類で行くと➂(②とも言えるが)に属します。➂は程度の差こそあれ、柳と九条の関係に直接介入できないという点で基本的に傍観者なのです。これは藤本しおりや宮部についても同じです。『ラストゲーム』は他作品に比べて主人公二人が物語に占める割合が非常に高いです。二人の関係を中心に、②のキャラが影響を及ぼし、➂のキャラたちが生暖かく見守るという図式が出来ているんですね。ですから、①と②の二項対立に➂の吉田を入れるというのは、『ラストゲーム』の構造上若干まずかったんじゃないかなと思います。確かに吉田はギャグや引き立て役的側面が強いですが、結果的に二人の関係にやきもきするといった本作本来の魅力が少し減ってしまっていたように思います。

 

 その点6巻は柳、九条、相馬、、橘の四人が中心になっており、本来の構図に戻ったと言えるでしょう。そのため前巻にも増してこの作品ならではのドキドキ感が生きていたように思います。また前回で完膚無きまでに叩きのめされたかに見えた橘が執念とガッツの復活を果たし、柳にアタックを続けてますね。これはちょっと意外でした。これで先に勝負を諦めている相馬と対立するわけで、それによって相馬のドラマが動き出します。この作品は本当に二項対立的にキャラを描きますね。

 

 もう一つ。『ラストゲーム』は連載化の経緯もあり、1巻が単独で起承転結を為しており、バランスがいいです。この作品の魅力は? と聞くと「1巻の完成度」と答える人も多いぐらいです。僕自身は4巻辺りがとても好きなんですが、1巻の完成度はかなり高いと思いますし、1巻が『ラストゲーム』全体の構造の縮図になっていると思います。

 

 1巻は3話構成になっているのですが、これを視点という側面から見てみると1話、2話が柳視点、3話が九条視点です。これは2話終了の時点で柳→九条への関係、好感度はほぼ確定しており、最後に九条→柳の心情を描いて完結するということです。これはその後の展開にも言えて、柳の九条への思いはもう定まってしまっていて、肝心なのは九条の柳への思いです。柳を恋愛対象として認識するコンテクストがまるでない九条が、柳に影響されながらそれを手に入れていく、ある意味「九条育成計画」がこの漫画の核の一つで、この作品のドキドキの原動力でしょう。そう考えると6巻はとてもそれがよくできていて、柳が間違ってキスしてしまって……の展開あたりがそうでしょう。予想外のことをされ、九条はそれを理解しようと必死に考える。そうして一歩一歩知識を蓄えて、二人の関係は進展していきます。九条が理解不能さに奮闘する様が柳に向けられた時はグッとくるシーン、他のキャラに向けられた時は生暖かいシーンになったりするわけです。6巻の「GAME25」は微妙にメインストーリーから外れているのですが、これは「九条育成計画」がどこまで進んだかな、また柳視点でどうなのかを示す経過報告書みたいなものです。こういうのをちょいちょい挟んでくるあたりが『ラストゲーム』の上手いところですね。

 

 6巻はなにやら猛烈な引きで終わりましたが、さてさてどうなるやら。次の巻がまた年明けというのが心憎いですね。まあこのやきもきする感じが『ラストゲーム』の一番いいところです。

 

蛇足:僕はしおりさんがすげぇ好きなんですが、最近どんどん傍観者ポジションを固めていってキャラとしての次元が一つ上に行っちゃっている気がします。ストーリーの骨子としては正しい展開なんでしょうが、ちょっと複雑ですね……


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